あんでっど、姫!Scene2

「すまないな、清嗣殿。−本庄殿にもご足労頂いて」
「いや、この度はなんと申したらよいか…ご嫡男の治良殿に続いて…沙耶姫まで…」
「…実は、その事なのだが…」
一瞬戸惑ったように言いよどんでから、沙耶の父は続ける。
「うちの子供も、残すは末の香夜だけになった…。だが、あれは姫だ。世継ぎにするわけにもいかん。 …まだ沙耶が死んだばかりというのにこのような話はいかがとは思うが、どうであろうか。 沙耶の喪が明けたら、改めて香夜との縁談を考えてはもらえぬだろうか…?」
「え…!?」
清嗣が目を丸くする。この時代、相手が居なくなった途端に別の縁談が舞い込むことはそう珍しい事でもないが、それが我が身ともなれば驚く事も無理はないけれど。
「−…こちらとしても願っても無い事…」
「…!?父上?」
「よいか、清嗣。我が本庄家が治める国は四季に恵まれ、景観の良さでは日本で1,2を争えることに間違いはない。だが、その景観を楽しむ旅人相手の商売だけでは民は生きてゆけぬ。波多家の治めるこの土地は、土壌も豊かで、海もある。両家がつながるということは、我が国が生きていく為に必要なのだ」
「それは我が国とて同じ事。いくら国が豊かでも、民の心が貧しければよい国とは言えぬ。そんな心の飢えを癒してくれる場所が必要なのだ」
「…ですが…」
親の言い分はわかる。だが、自分の心情としてすんなりと受け止める事ができない。清嗣はそれ以上、何も言えなかった。

「うわっ…いたたたたっ…。あ〜もうっ!なに?死んじゃった途端にこの扱いって酷くない!?」
所変わってこちら、先ほど”あの世”から戻ってきた沙耶。いつものふんわりした布団でなく、見晴らしのよい自室でもなく。冷たくひんやりした部屋にひんやりした布団。なれない感触に腰が痛んだのである。
それでもよっこらせと腰を起こし、布団から抜け出る。腕をぐるっと回してみる。…確かに問題なく動いている。少なくとも今は。なんだか兄の脅しにだまされたような気がしないでもないが。そおっと襖を開けて、廊下を歩いていく。冷たいはず、寝かされていた場所は、地下室だったのだから。
「ええ…っと。食べたり、飲んだりしてはいけないのよね。それから、お日様に当たる事と…」
兄の言葉に疑心暗鬼になりつつも、禁じられた事を思い起こしながら、彼女は階段を上がり始めた。

香夜の部屋では、まだ涙に瞳をうるわせた香夜と、清嗣が佇んでいた。先ほど、両家の父親が決めたことを伝える為に。
「−という訳なのです」
ぽつり、ぽつりと話される事の次第を、香夜はただ、俯きながら聞いていた。
「や、矢張り、困りますよね。幾ら家のため、民のためとはいえ、身代わりのようなお話は…」
俯いたまま、何の反応もない香夜を見ておろおろしながら清嗣は話を続ける。いくらなんでもタイミングが悪すぎる。まだ葬儀さえ行っていないのだから。
ところが、そんな彼の気持ちを覆すような言葉を彼女は言ってのけた。
「−…清嗣様は、香夜の事がお嫌いでいらっしゃいますか…?」
「−−え!??」
予想しなかった答えに清嗣は驚きと戸惑いで凍りついた。他に続ける言葉もなくただ唖然としたまま、俯いたままの香夜に向けている。
そんな彼を前に、香夜は逆に言葉を続けていく。
「…もしも…清嗣様が…香夜の事を、お嫌でないのであれば…お父様達のお言葉通り…」
「え…」
(え…?)
部屋の中でそのまま凍り付いている清嗣と同時に固まっていたのは、たまたま廊下を通り抜けようとした沙耶。
「…矢張り、駄目…でしょうか…。私は姉様のように天真爛漫な性格でもありませんし…」
「…え?あ、いや…その…」
さっきまでとは違う意味で目を潤ませる香夜をみて清嗣はただただ慌てふためくしかなかった。ずっと妹姫としてしか見ていなかった彼女がまさかそのような事を言うとは…。そのような事を言うような情を持っているとは…考えた事もなかったし、考えられるはずも無かった。
そして、考えられなかったのは、彼女の姉である沙耶も全く同じだったのである。むしろ、沙耶の方が驚きは大きいかもしれない。まさか、そんなことがありえるのか…。しかも、自分の喪が明けたら…二人が夫婦(めおと)になると…?

すっぱーーん!!

気づけばふすまを力いっぱい開いていた。ふすまが柱にぶつかって激しく音を立てる。その音に自身もびっくりしたほどに。
中に居た二人は驚いて振り向いたまま思考停止してしまっているようだ。
(…あっ…しまった…つい…)
座った二人と仁王立ちの沙耶。しばらく三人は時が止まったようにその場で見詰め合っていた。



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