風邪をひいた夜

体が熱くて、あちこちが痛い。寝返りを打つのも鬱陶しく感じる。
風邪をひくなんて、どれくらいぶりだろう。もともと病気には縁遠い体質だった分、こうなると、慣れなくて、病状の一つ一つが不快でたまらない。特に外気でなく自分の体温の高さで掻く汗の気持ち悪さにはお手上げ。そろそろこのパジャマも着替えないと。汗でまとわりつく感触が不快感に拍車をかけてくるからだ。
ぼうっとしたまま体を起こすと頭から濡れたタオルが落ちてきた。だるくてだるくてとても寝ていられる気はしてなかったのに、どうやら眠っていたらしい。誰かがここへ入ってきてタオルを置いてくれたことも気づかないほど。…というか、誰が自分の不調に気づいたのだろうか。ポーカーフェイスを作るのが得意な自分。少なくとも、人が居る前ではいつもどおりに振舞っている自信があったのに。
「…ん?」
体を起こしたせいで耳と目の角度がかわった。その視覚の隅にある髪。かすかに聞こえる呼吸。ゆっくり顔をそちらへ向けると暗がりで椅子に座っている人一人。このタオルの主もおそらく−。
「バカ…。風邪だってわかってるならこんなところで寝るなよ。うつったらどうするんだ…」
こくっこくっと軽く体をゆらしながらすっかり夢の世界に入り込んでいる相手に、一人ごちながら、起こしていいものかどうかも悩まれる。 かといってこのまま椅子で眠られてはずみで椅子ごとこけたら笑えない。
−仕方ないか、と痛む頭ときしむ体をゆっくり動かしてベッドから立ち上がる。やや危なっかしい足取りでクローゼットまでたどり着くと、中から予備のタオルケットと自分の着替えを取り出す。あれこれと起きたまま考えてしまったので汗で湿ったパジャマは冷えきってしまっていて、さっきまでとは違う不快感を全身に与えていた。
だるさで動作がゆっくりになりがちだが、それでもかなり迅速に着替えを完了するとソファにタオルケットを投げ、どうせ寝るならこっちで寝といて欲しかったなぁとかどうでもよさげな事を考えながら、起こさないようにそっと抱き上げる。なんとかソファの前まで来て、下ろすのに失敗してしまった。もつれ込むように一緒にソファに倒れこむ。

−瞬間。

自分の顔の目の前に相手の顔が急接近。働かない頭が危険感を感じて力を入れるのと落下のスピード。ほんの数瞬、自分の行動力の方が遅れて相手の唇に自分のそれが触れる。慌てて体を離して気づかれてないか数秒寝顔を見つめる。自分の焦りを他所に変わることなくすぅすぅと呼吸を続けているところを見るとその心配はなさそうだ。
そっとタオルケットをかけてやる。その間も規則的に寝息を立てている顔をみつめて
「だ、大丈夫。バレてないバレてない。…ま、まぁ、あれは事故だ、から…」
予想外のハプニングのおかげでまた体温が上がってきたようで、今度はそれに加速していく心拍数が加わる。と、とりあえずベッドに戻ろう…と背中を向ける。
子供のときからの癖で寝るときは体を横向きにするのが眠りやすいとわかっているのだけれど、今それをするとどうしてもソファの方に顔が向いてしまって、その結果、さっきのことが気になって眠れそうにないから、慣れない姿勢で寝ようと務める。
−どうしよう…明日普通にふるまえるかな…とか、そんなことを思いながら。






++あとがき++
わ、わはははは〜。ありきたりの話って自分でも思うけど、こういう話たっのし〜〜♪
とか思いつつ想像力満載で書いてました(笑)。うん。もともとコレくらいの長さが自分の中で一番書きやすい量なので、面白いようにタイピングが進みました(…ペンが進むとか走るとか言わない当たりが現代だよ…はぁ)。

「何の話だ?」と思われた方がいらっしゃる事を祈って、ここは書いてみますが(笑)、登場人物って誰だ?男?女?はたまたなんかのパロディか?みたいなことにな〜んにも触れないようにしてあります。なんとなく流し読みしてもらうのもよし、読んでくださっている方のイメージするものに当てはめていただいてもよし、コイツの思考を読んでやろうと解読に努めていただくのも良し(苦笑・そんな人いないから)…ということで。

ショートだと非常に、ネタが思いついた時点で書きやすいから、もしかすると(いやきっと)これからもこんなのをちょこらちょこらと書いてると思います(笑)。

2005.08.02


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